心電図は、循環器病棟に限らず、すべての看護師が読めるようになるべき基本的なモニタリングツールです。「心電図が苦手」という看護師は多いですが、実は看護師が臨床で判断すべきポイントは限られています。すべての不整脈を診断する必要はありません。「正常か異常か」「緊急性があるか」の2つを判断できれば、臨床で困ることはほぼなくなります。
この記事では、心電図の基本(P波・QRS波・T波・ST部分の意味)から、看護師が必ず知っておくべき異常波形10パターン、緊急対応が必要な致死的不整脈の見分け方、モニター心電図のアラーム設定、12誘導心電図の正しい取り方まで、現場ですぐに使える知識を凝縮して解説します。
心電図の基本|P波・QRS波・T波を理解する
心電図を読む前に、正常波形の意味を理解しましょう。心電図は心臓の電気的活動を記録したもので、各波形が心臓のどの部分の動きを反映しているかを知ることが、異常波形を見分ける基礎になります。
正常波形の構成要素
P波:心房の脱分極(心房の収縮の前段階)を表す小さな波です。洞結節から発生した電気刺激が心房全体に広がる過程を反映しています。正常では丸みを帯びた上向きの波で、幅は0.10秒以下、高さは2.5mm以下です。P波が消失している場合は心房細動を疑い、P波の形が変わっている場合は心房の異常を考えます。
PQ(PR)間隔:P波の始まりからQRS波の始まりまでの時間で、心房から心室への電気伝導にかかる時間を表します。正常値は0.12〜0.20秒です。0.20秒を超える場合は房室ブロックを疑います。
QRS波:心室の脱分極を表す鋭い波です。Q波(最初の下向きの波)、R波(最初の上向きの波)、S波(R波の後の下向きの波)で構成されます。正常幅は0.06〜0.10秒で、0.12秒以上に幅広くなっている場合は心室内伝導障害(脚ブロック)を疑います。QRS波は心室の収縮を反映するため、この波形が消失したり乱れたりすることは、心室の重大な異常を意味します。
ST部分:QRS波の終わりからT波の始まりまでの部分で、心室全体が脱分極した状態(プラトー期)を反映しています。正常では基線と同じ高さ(等電位線上)にあります。ST部分が基線より上昇している場合は急性心筋梗塞、低下している場合は心筋虚血を疑います。ST変化は「超緊急」の判断に直結するため、看護師にとって最も重要なポイントの一つです。
T波:心室の再分極(心室が収縮後に電気的に回復する過程)を表す波です。正常では丸みを帯びた上向きの波で、QRS波より小さいのが普通です。T波の異常(先鋭化、陰性T波、平坦化)は電解質異常や虚血性心疾患で見られます。特に高カリウム血症による先鋭T波(テント状T波)は緊急対応が必要です。
心電図を読む3ステップ
異常波形を見分けるために、以下の3ステップで系統的に心電図を読む習慣をつけましょう。
- ステップ1:リズムは整か不整か? — RR間隔が等間隔なら整、不規則なら不整。心房細動の最大の特徴は「完全な不整」
- ステップ2:心拍数は正常範囲(60〜100回/分)か? — 頻脈(100回/分以上)か徐脈(60回/分未満)かを判断
- ステップ3:P波・QRS波・ST部分に異常はないか? — P波の有無と形、QRSの幅、STの上昇・低下をチェック
看護師が知るべき異常波形10パターン
臨床で遭遇頻度が高く、看護師として認識すべき異常波形を10パターン厳選しました。緊急度の高い順に解説します。
緊急度:最高(直ちに救急対応)
1. 心室細動(VF:Ventricular Fibrillation)
心室が無秩序に震え、有効な心拍出がなくなる致死的不整脈です。心電図では規則的な波形が完全に消失し、大小不同の不規則な波が連続します。発見したら直ちにCPR(心肺蘇生法)を開始し、AED(除細動器)の準備を指示してください。1分1秒が生死を分けます。
2. 無脈性心室頻拍(pulseless VT)
幅広いQRS波(0.12秒以上)が規則的に速い速度(150回/分以上)で連続する波形です。脈拍が触知できない場合は心室細動と同じ扱いで、直ちにCPR・除細動が必要です。脈拍がある場合(有脈性VT)も緊急性が高く、医師への即座の報告と薬物療法(アミオダロン等)の準備が必要です。
3. 心静止(Asystole)
心電図が平坦(フラットライン)で、電気的活動がほぼ完全に停止した状態です。除細動は無効で、CPRとアドレナリン投与が主な治療です。ただし、モニター上でフラットラインに見えても、リード外れやゲイン設定の問題の場合もあるため、まず電極の接続を確認してください。
緊急度:高(速やかに医師へ報告)
4. ST上昇
ST部分が基線より2mm以上上昇している場合、急性心筋梗塞(STEMI)の可能性が高いです。胸痛を伴う場合はほぼ確実です。12誘導心電図を速やかに記録し、医師に報告してください。「時間=心筋」であり、発症から再灌流治療(PCI)までの時間が短いほど心筋の救済範囲が広がります。
5. 完全房室ブロック(3度房室ブロック)
P波とQRS波が完全に独立したリズムで出現し、心房と心室の電気的つながりが途絶した状態です。心拍数が著しく低下(30〜40回/分)し、失神やショックを起こす可能性があります。一時的ペースメーカーの準備が必要になることが多いです。
緊急度:中〜高(注意して観察・報告)
6. 心房細動(AF:Atrial Fibrillation)
最も遭遇頻度が高い不整脈のひとつです。P波が消失し、基線が細かく揺れ(f波)、RR間隔が完全に不規則になります。脈拍は「完全に不整」で、心拍数は60〜180回/分と幅広いです。心房細動自体は直ちに命に関わりませんが、血栓形成→脳梗塞のリスクがあるため、抗凝固療法の確認が重要です。新規発症の場合は医師に報告してください。
7. 心室期外収縮(PVC:Premature Ventricular Contraction)
心室から異所性に電気刺激が発生し、幅広いQRS波が正常のリズムに割り込むように出現します。散発的なPVCは健常者にも見られ、通常は無害です。ただし、以下のパターンは危険サインで、医師への報告が必要です。
- 頻発性PVC:1分間に6回以上
- 連発(カプレット・トリプレット):PVCが2〜3連続で出現
- 多形性PVC:PVCの形が複数種類ある(複数の異所性焦点)
- R on T現象:PVCのR波が先行するT波の頂点に重なる(VF誘発リスク)
8. 洞性頻脈
洞結節からの正常な電気伝導で、心拍数が100回/分以上の状態です。波形自体は正常(P波→QRS→T波の順序が保たれている)で、リズムも整です。発熱、疼痛、不安、脱水、出血、貧血、甲状腺機能亢進症など、原因を検索・対応することが重要です。「心拍数が高いこと」そのものよりも、「なぜ頻脈になっているのか」を考えましょう。
9. 洞性徐脈
心拍数が60回/分未満の状態です。波形は正常で、リズムも整です。アスリートやβ遮断薬服用中の患者では生理的な範囲であることも多いです。ただし、心拍数40回/分以下で意識レベル低下、血圧低下、めまい、失神などの症状がある場合は緊急対応が必要です。
10. ST低下
ST部分が基線より1mm以上低下している状態で、心筋虚血を示唆します。労作時に出現し安静で改善する場合は労作性狭心症、安静時にも持続する場合は不安定狭心症の可能性があります。胸痛の有無、ニトログリセリンの効果、12誘導心電図の変化を確認し、医師に報告してください。
